【韓国文化】流行に乗り遅れたくない?韓国人のトレンド感度と「みんなと同じ」を好む背景
「빨리빨리 (パリパリ:早く早く)」や「괜찮아 (ケンチャナ:大丈夫)」精神に代表されるように、韓国人の国民性には様々な側面があります。その中でも、外国人から見て特に興味深く、時に驚きをもって語られるのが、「流行への驚異的な敏感さ」そして「みんなと同じものを好む」傾向ではないでしょうか。
口コミであれ、ネット情報であれ、一度「これが流行っている!」となると、瞬く間に多くの人が飛びつき、街中が同じようなファッションやアイテムで溢れる…そんな光景を目にしたことがある方もいるかもしれません。今回は、韓国人のこの驚くべきトレンド感度の高さと、「みんなと同じ」を志向する文化背景について、具体的な事例を交えながら深掘りしていきます。
目次
まるで国民総出?韓国の「流行」現象の具体例
韓国における「流行」は、時に社会現象とも呼べるほどの規模になることがあります。過去から現在までの事例を見てみましょう。
過去の事例:登山ブームと「トゥンコルブレイカー」
一時期、韓国では健康志向の高まりから登山が大ブームとなりました。週末になると、有名な山はもちろん、近所の低山まで多くの人々が繰り出し、その誰もが最新のアウトドアウェアに身を包んでいる、という光景が見られました。特に特定の海外ブランド(記事では「ザ・ノースフェイス」が挙げられています)のウェアが大流行し、「これを持っていないと仲間外れにされるような気がする」とまで言われるほどでした。
この流行は、特に中高生の間で高価なダウンジャケット(通称ペディン:패딩)が必須アイテムのようになり、親に大きな経済的負担を強いる状況を生み出しました。そこから生まれたのが、
등골 브레이커 (トゥンコル ブレイカー:背骨ブレーカー=親のすねかじり)
という衝撃的な俗語です。「親の背骨(등골:トゥンコル)を折るほど負担をかける」という意味合いで、流行に乗りたい子どもの欲求と、それを叶えようとする親の苦労、そして社会的な同調圧力を象徴する言葉として広まりました。(元々は「등골 빼 먹는다:トゥンコル ペ モンヌンダ – 背骨のエキスを吸い取る」という慣用句から来ています。)
社会現象になった「ハニーバターチップ」争奪戦
お菓子の世界でも同様の現象が起きました。2014年頃、ヘテ製菓(日本のカルビーとの合弁会社)から発売されたポテトチップス「허니버터칩 (ホニボトチプ:ハニーバターチップ)」が、その甘じょっぱい独特の味で爆発的な人気を博しました。
SNSでの口コミから人気に火が付き、生産が追いつかず、どこの店でも品切れ状態が続出。入手困難な状況がかえって人気を煽り、インターネットオークションで高値で取引されたり、有名人がSNSで「ゲットした!」と報告したりするなど、まさにお菓子一つが社会現象となったのです。多くの人が「まだ食べてないの?」というプレッシャーを感じ、「とにかく一度は食べてみたい」と探し回る状況でした。
【会話例:幻のお菓子?】
가: 요즘 인기가 있는 허니 버터 집을 먹어 봤어.
最近人気のハニーバターチップスを食べてみたよ나: 그래? 난 아직 못 먹어 봤어. 살 수가 없어서 … 그렇게 맛있어?
おお!私はまだ食べてないよ。買えなくて・・・そんなにおいしいの?가: 응. 정말 맛있었어.
うん。本当においしかったよ
(※現在は定番商品として比較的容易に入手できます。)

ファッションもグルメも、韓国ではトレンドの移り変わりが非常に速い。
ファッション・美容におけるトレンドの画一性?(整形、髪型)
ファッションや美容の分野でも、同様の傾向が見られます。特定の髪型、メイクアップ、ファッションアイテムが流行すると、街を歩く多くの人が同じようなスタイルをしている、と感じることがあります。「オルチャンメイク」と呼ばれる特定のメイクスタイルや、一時期流行したシースルーバング(前髪)、特定のブランドのスニーカーなどがその例です。
美容整形に関しても、依然として盛んですが、その時々の「理想の顔」とされる芸能人などに影響を受け、似たような仕上がりを目指す傾向がある、としばしば指摘されます。(ただし、近年はより個性を重視し、ナチュラルな仕上がりを好む傾向も強まっています。)
このような流行への同調性は、韓国の人々の情報収集能力の高さと、美意識の高さを反映しているとも言えますが、一方で「没個性的」と見られる側面もあります。
最新事例:カフェ巡り、特定のアイテム、SNS発のトレンド
現代においては、特にSNS(InstagramやTikTokなど)がトレンド発生・拡散の強力なエンジンとなっています。
- カフェ巡り(카페투어:カペトゥオ): 特定の「映える」カフェや、ユニークなメニューを提供するカフェがSNSで話題になると、多くの人が訪れ、同じようなアングルで写真を撮って投稿する、という現象が見られます。
- ファッションアイテム: 特定のアイドルやインフルエンサーが着用した服、バッグ、アクセサリーなどが、瞬く間にオンラインストアで売り切れ、街中で模倣したスタイルが増えることも日常茶飯事です。
- チャレンジ動画・ミーム: TikTokなどで流行する特定のダンスチャレンジや面白い動画(ミーム)なども、驚異的なスピードで広がり、多くの人が参加します。
これらの事例からも、韓国社会における流行への関心の高さと、それに乗り遅れたくないという意識の強さがうかがえます。
なぜ韓国人はこれほど流行に敏感なのか?その背景を探る
一体なぜ、韓国の人々はこれほどまでに流行に敏感で、「みんなと同じ」を好む傾向があるのでしょうか?いくつかの文化的・社会的な背景が考えられます。

SNS映えは重要?流行の場所で「認証ショット」を撮るのも韓国では一般的。
「ウリ(私たち)」意識と集団主義:仲間外れへの不安?
韓国社会では、「우리 (ウリ:私たち)」という言葉に象徴されるように、個人よりも集団への帰属意識が強い傾向があります。家族、学校、会社、地域社会など、自分が属する集団の中で調和を保ち、一体感を持つことが重視されます。そのため、「みんなが持っているものを持っていない」「みんながしていることをしていない」という状況は、集団からの疎外感や仲間外れにされることへの不安につながりやすいと考えられます。流行に乗ることは、集団への所属を確認し、安心感を得るための一つの方法なのかもしれません。
「人の目」を気にする文化(チェミョン:体面)
韓国には「체면 (チェミョン:体面、メンツ)」を非常に重んじる文化があります。他人から自分がどう見られているか、社会的な評価や評判を非常に気にする傾向が強いのです。流行遅れであったり、他の人と違う格好をしていたりすると、「みっともない」「格好悪い」と見られるのではないか、という意識が働き、周囲の目を気にして流行に合わせようとする心理が働く可能性があります。
情報伝達スピードの速さ:ITインフラとSNSの普及
韓国は世界でもトップクラスのIT先進国であり、高速インターネット網が全国津々浦々に整備され、スマートフォンの普及率も極めて高いです。これにより、情報伝達のスピードが非常に速く、新しい情報やトレンドが瞬時に国民全体に共有される環境が整っています。特に、Instagram、Facebook、KakaoTalk、TikTokといったSNSの利用率が非常に高く、インフルエンサーや友人・知人の投稿を通じて、新しい流行が生まれ、爆発的に拡散していくのです。
競争社会と自己アピール
学歴競争や就職難など、韓国は非常に競争が激しい社会でもあります。その中で、流行に敏感であること、トレンドを取り入れていることは、自分が時代についていっていること、情報感度が高いことのアピールにも繋がります。特にファッションや美容において、トレンドを意識することは、自己肯定感を高めたり、他者からの評価を得たりするための一つの手段となっている側面もあります。
新しいもの好き?ダイナミックな国民性
「パリパリ(早く早く)」精神にも通じるかもしれませんが、韓国の人々は一般的に変化に対する抵抗が少なく、新しいものや刺激的なことを好む傾向があるとも言われます。次々と新しいトレンドが登場し、それが受け入れられ、消費されていく社会のダイナミズムも、流行への敏感さを後押ししているのかもしれません。
「みんなと同じ」の光と影:メリットとデメリット
流行に敏感で、「みんなと同じ」を好むという特性には、当然ながら良い面と悪い面があります。
メリット:一体感、情報共有の容易さ、経済効果
- 一体感・連帯感: 同じ流行を共有することで、人々は一体感や連帯感を感じやすくなります。共通の話題で盛り上がったり、仲間意識を強めたりすることができます。
- 情報共有の効率化: 何が「良い」とされているか、「今、注目すべきこと」が分かりやすいため、情報収集や意思決定が効率的に行える側面があります。
- 経済効果: 特定の商品やサービスに人気が集中することで、短期間で大きな経済効果を生み出すことがあります。企業にとっては大きなビジネスチャンスとなります。
デメリット:同調圧力、個性の喪失、過剰消費、流行疲れ
- 同調圧力: 流行に乗らない人や、違う意見を持つ人に対して、無言の圧力(仲間外れ、批判など)がかかりやすい雰囲気があります。「トゥンコルブレイカー」の例のように、望まない消費を強いられることもあります。
- 個性の喪失: 周囲に合わせることを優先するあまり、自分自身の好みや価値観が見えにくくなり、画一的なスタイルや考え方に陥りやすくなります。「個性がない」と見られる所以です。
- 過剰消費: 次々と新しい流行を追いかけることで、必要以上のものを買ってしまったり、借金をしてまで消費したりする問題も指摘されています。
- 流行疲れ: 常に新しい情報をキャッチアップし、流行に乗り続けなければならないというプレッシャーに、精神的な疲労を感じる人も少なくありません。
変化の兆し?個性を尊重する動きと多様化
一方で、近年ではこうした画一的な流行追随や同調圧力に対する疑問の声も聞かれるようになり、変化の兆しも見られます。
若い世代の価値観の変化
特にMZ世代(ミレニアル世代+Z世代)と呼ばれる若い世代を中心に、画一的な成功や幸福の形ではなく、自分自身の価値観や幸福を追求しようとする動きが強まっています。MBTI診断(性格診断)が韓国で大流行した背景にも、自己理解や他者との違いを認識したいという欲求があると言われています。
「コスパ」「自分らしさ」重視の傾向
単に流行っているから、ブランド品だからという理由だけでなく、「가성비 (カソンビ:価格性能比=コスパ)」や「가심비 (カシムビ:価格対心理的満足度)」を重視する消費スタイルも広がっています。中古品取引アプリ(例:タングンマーケット)が人気を集めているのも、その表れと言えるでしょう。また、画一的な美しさよりも、自分らしい魅力や個性を大切にするという考え方も徐々に浸透し始めています。
グローバル化の影響
インターネットやSNSを通じて、海外の多様な文化や価値観に触れる機会が増えたことも、画一的な思考からの脱却を促している要因の一つです。海外のトレンドを取り入れつつ、自分なりにアレンジする、といった動きも見られます。
まとめ:韓国のトレンド感度を理解し、文化を楽しむ
韓国人の驚くべき流行への敏感さと、「みんなと同じ」を好む傾向。その背景には、集団主義や体面を重んじる文化、ITインフラの発達、競争社会といった様々な要因が複雑に絡み合っています。それは時に強い同調圧力を生み、個性を埋没させる側面も持ち合わせますが、一方で社会的な一体感を生み出し、経済を活性化させるダイナミズムの源泉ともなっています。
近年では、個性を尊重し、多様な価値観を受け入れようとする変化の兆しも見られます。韓国のトレンドを追いかけることは、その社会の「今」を知るための面白い窓口となります。ただし、その特性を理解した上で、表面的な流行に惑わされず、その背景にある文化や人々の心理に目を向けることが、より深い異文化理解につながるでしょう。韓国語学習においても、こうした文化的な背景知識は、言葉のニュアンスや人々の行動を理解する上で、きっと役立つはずです。