陛下・殿下・世子様!韓国時代劇の複雑な呼び方&言葉遣いをマスター【初心者向け解説】
壮大なストーリー、華麗な衣装、そして魅力的な俳優たち… 韓国の時代劇ドラマ(사극:サグク)は、多くの人々を惹きつけ、韓国の歴史や文化への関心を高めるきっかけとなっています。しかし、ドラマを見ていると、「폐하(ペハ)?」「전하(チョナ)?」「마마(ママ)?」など、登場人物たちの呼び方がたくさんあって、誰が誰に対して使っているのか、どんな意味なのか混乱してしまう…という経験はありませんか?
また、「~옵니다(オムニダ)」のような、現代韓国語とは異なる独特の丁寧語や言い回しも、時代劇の大きな特徴であり、同時に理解を難しくさせる要因の一つです。「言葉が難しくて時代劇は苦手…」と感じている方もいらっしゃるかもしれません。
でも、大丈夫!これらの呼称や言葉遣いのルールを知れば、登場人物の関係性や身分がより明確になり、ドラマの面白さが格段にアップします。この記事では、韓国時代劇を100倍楽しむために、王族の複雑な呼び方(尊称)とその背景、そして時代劇特有の会話フレーズについて、初心者にも分かりやすく徹底解説します!
目次
なぜ難しい?時代劇の呼称と歴史的背景
まず、なぜ韓国時代劇の呼び方や言葉遣いが複雑に感じられるのか、その背景を見てみましょう。
地位と関係性を示す多様な呼び方
韓国(特に朝鮮王朝時代)は、儒教の影響を強く受けた社会であり、年齢、性別、家柄、官位などによって、人々の間の厳格な上下関係(序列)が定められていました。そして、その関係性は言葉遣い、特に相手をどう呼ぶかという「呼称」に明確に反映されました。王、王妃、世子(世継ぎ)、王子、王女、そして臣下たち…それぞれの立場と、話者が誰で相手が誰かという関係性によって、使うべき敬称や呼び方が細かく決まっていたのです。これが、現代の私たちから見ると複雑に感じられる理由の一つです。
中国との関係が影響?呼称の変遷(ペハ→チョナ→チョハ)
さらに、朝鮮半島の歴史において、中国王朝との関係性が王の呼称に影響を与えてきました。一般的に、独立した国家の最高君主、あるいは中国の「皇帝」に対しては「폐하 (ペハ:陛下)」という最高位の尊称が使われました。韓国の歴史においても、高麗王朝の中期頃までは、自国の王を「陛下」と呼んでいました。
しかし、高麗がモンゴル(元)の支配下に入ると、元の皇帝への配慮から、高麗王の呼称は一段階低い「전하 (チョナ:殿下)」に格下げされました。(記事では忠烈王の時代からとありますが、元宗の時代から使われ始めたという説もあります)。
その後、朝鮮王朝時代になると、明や清の皇帝を「陛下」とし、朝鮮国王はそれに次ぐ「殿下」と称するのが基本となりました。さらに、王位継承者である世子(セジャ)は、国王(殿下)よりもさらに一段低い「저하 (チョハ:邸下)」と呼ばれるようになったのです。このように、国際関係や力関係の変化が、王族の呼称にも影響を与えてきた歴史があります。

「チョナ~!」時代劇でお馴染みの王様への呼びかけ。その意味と背景は?
これで解決!主要な王族の呼び方(尊称)とその意味
それでは、時代劇でよく使われる主要な王族の尊称について、その意味と対象者を解説します。
皇帝レベル?「폐하 (ペハ:陛下)」
- 意味・由来:「陛」は宮殿のきざはし(階段)を意味し、「陛下」は「階段の下」を指します。臣下が皇帝に直接話しかけることを避け、階段の下にいる側近を通して奏上したことから、皇帝に対する最高敬称となりました。
- 対象者: 主に皇帝。韓国の歴史においては、高麗王朝の中期までや、三国時代の一部、そして朝鮮王朝末期に成立した大韓帝国の皇帝(高宗、純宗)に対して使われました。また、中国の皇帝を指す場合にも使われます。
- ドラマでの例: 『朱蒙(チュモン)』『善徳女王』など古代が舞台のドラマや、『ミスター・サンシャイン』など大韓帝国時代が舞台のドラマで聞かれます。
王様への呼びかけ「전하 (チョナ:殿下)」と「주상 전하 (チュサン チョナ:主上殿下)」
- 意味・由来:「殿」は高貴な人が住む大きな館を意味し、「殿下」は「殿閣の下」を指します。「陛下」より一段階下の敬称です。
- 対象者: 主に朝鮮王朝時代の国王。臣下が王に呼びかける際に最も一般的に使われる敬称です。「陛下」が使えない状況下(中国との冊封関係)で、国王に対する最高敬称として定着しました。
- 주상 전하 (チュサン チョナ:主上殿下): 「주상 (主上)」は「現在の王様」という意味で、「殿下」につけて、より敬意を込めて呼ぶ場合に使われます。「王様!」という呼びかけに近いニュアンスです。
- ドラマでの例: 『イ・サン』『トンイ』『太陽を抱く月』など、ほとんどの朝鮮王朝時代劇で、王に対する呼びかけとして頻繁に登場します。
世子(世継ぎ)への呼びかけ「저하 (チョハ:邸下)」
- 意味・由来:「邸」は「殿」よりも格下の、単なる「やしき」を意味し、「邸下」は「邸の下」を指します。「殿下」よりもさらに一段階下の敬称です。
- 対象者: 主に王位継承者である王世子(왕세자:ワンセジャ)。まれに王世孫(ワンセソン:王の孫で世継ぎ)に使われることもありました。
- ドラマでの例: 『雲が描いた月明り』『100日の郎君様』など、世子が主人公または重要人物として登場するドラマで使われます。
王妃や大妃は?「마마 (ママ:媽媽)」の多様な使い方
- 意味・由来:「媽媽(ママ)」は、元々中国語で母親や年配の女性への敬称でしたが、朝鮮王朝では王族(男女問わず)や高位の女官(尚宮:サングン)など、高貴な身分の人物全般に対する敬称として広く使われました。日本語の「様」に近いですが、より限定的な対象に使われます。
- 対象者:
- 王妃(왕비:ワンビ): 中殿媽媽(チュンジョン ママ)
- 大妃(대비:テビ、先代の王妃): 大妃媽媽(テビ ママ)
- 王大妃(왕대비:ワンデビ、先々代の王妃): 王大妃媽媽(ワンデビ ママ)
- 世子(세자:セジャ): 東宮媽媽(トングン ママ)※「東宮」は世子の居所
- 世子嬪(세자빈:セジャビン、世子の妻): 嬪宮媽媽(ピングン ママ)
- 王子(大君/君): 大君媽媽(テグン ママ)/ 君媽媽(クン ママ)
- 王女(公主/翁主): 公主媽媽(コンジュ ママ)/ 翁主媽媽(オンジュ ママ)
- 高位の尚宮など
このように、役職名や身分を表す言葉の後ろに「ママ」を付けて敬意を表します。
- ドラマでの例: 時代劇には必ずと言っていいほど登場する頻出単語です。誰に対して使われているかを聞き取ることで、その人物の身分が分かります。
その他の王族(大君、王子、公主、翁主など)の呼び方
「ママ」を付けない場合や、より具体的に呼ぶ場合は以下のようになります。
- 大君(대군:テグン): 王妃から生まれた王子。通常「〇〇大君(テグン)」と名前をつけて呼ぶ。
- 君(군:クン): 側室から生まれた王子。通常「〇〇君(クン)」と名前をつけて呼ぶ。
- 公主(공주:コンジュ): 王妃から生まれた王女。通常「〇〇公主(コンジュ)」と名前をつけて呼ぶ。
- 翁主(옹주:オンジュ): 側室から生まれた王女。通常「〇〇翁主(オンジュ)」と名前をつけて呼ぶ。
これらの呼称も、身分や母親の出自によって厳格に区別されていました。
(コラム)王様の服の色にも意味がある?五方色と袞龍袍(コンリョンポ)
時代劇を見ていると、王様が着ている服(龍袍:ヨンポ)の色が、作品や時代によって赤だったり、青だったり、時には黄色だったりすることに気づくかもしれません。これには、陰陽五行思想に基づいた「五方色(오방색:オバンセク)」という伝統的な色彩観が関係しています。
陰陽五行思想と五方色(青・赤・白・黒・黄)
五方色とは、宇宙の基本要素とされる五行(木・火・土・金・水)と、方位(東・南・中央・西・北)、季節(春・夏・土用・秋・冬)などを結びつけた、伝統的な色彩体系です。
- 東=木=青(청:チョン)=春
- 南=火=赤(적:チョク)=夏
- 中央=土=黄(황:ファン)=土用
- 西=金=白(백:ペク)=秋
- 北=水=黒(흑:フク)=冬
これらの色は、それぞれに象徴的な意味を持ち、儀式や服装、建築など、様々な場面で用いられてきました。
皇帝の色「黄」と王の色「赤」(または青、黒など時代による)
五行思想において、中央を象徴する「黄」は、最も高貴な色とされ、主に中国の皇帝が独占的に使用する色でした。皇帝が着る黄色い龍袍は「황룡포(ファンニョンポ:黄龍袍)」と呼ばれます。
一方、中国皇帝に次ぐ地位とされた朝鮮国王は、黄色を使うことを避け、主に「赤」の龍袍「곤룡포(コンリョンポ:袞龍袍)」を着用しました。赤は南方を象徴し、陽の気や権威を表す色とされました。ただし、時代や状況によっては、国王が青や黒などの袍を着用したこともあります。大韓帝国時代には、高宗皇帝が中国皇帝と同じ「黄」色の袍を着用し、独立国家としての威厳を示しました。
身分による服装の違い(補足)
王族だけでなく、臣下の官服の色や模様、女性の婚礼衣装(緑衣紅裳:ノグィホンサン)などにも、五方色に基づいた色の使い分けや意味付けが見られます。また、庶民は白や生成り色の服を着ることが多かったと言われています。
※ドラマの衣装は、視聴者への分かりやすさや視覚的な美しさを考慮して、必ずしも史実に忠実な色使いとは限りません。

「ソンクハオムニダ~」時代劇特有の言葉遣いも理解のポイント。
字幕なしで理解したい!時代劇特有の丁寧語とフレーズ
呼び方と並んで時代劇の理解を難しくするのが、独特の言葉遣いです。特に、王族や高官に対して使われる、非常に丁寧な敬語表現は、現代韓国語とは大きく異なります。
最高敬語「~옵니다 / ~옵나이다 / ~소서」体
現代韓国語の最も丁寧な語尾は「-(스)ㅂ니다」ですが、時代劇、特に王族に対しては、それよりもさらに丁寧な最高敬語が使われました。その代表が「-옵니다 (オムニダ)」「-옵나이다 (オムナイダ)」です。これは動詞や形容詞の語幹に付き、「~でございます」「~いたします」といった非常にへりくだったニュアンスを表します。「-옵나이다」の方がより丁寧とされます。
また、命令形や要求を表す最高敬語としては「-(으)시옵소서 (シオプソソ)」や「-하여 주시옵소서 (ハヨ ジュシオプソソ)」といった形(合わせて「~소서(ソソ)体」と呼ばれることも)が使われ、「~してくださいませ」「~なさってくださいませ」といった意味になります。
よく聞く!定番フレーズとその意味・場面
これらの最高敬語を使った、時代劇頻出のフレーズをいくつかご紹介します。意味と使われる場面を覚えておくと、ドラマの理解度が格段に上がりますよ。
【恐縮・謝罪】(主に臣下が王に対して)
- 송구하옵니다 / 송구하옵나이다 (ソングハオムニダ / ソングハオムナイダ):恐れ入ります、申し訳ございません。王の叱責を受けた時など。
- 황공하옵니다 / 황공하옵나이다 (ファンゴンハオムニダ / ファンゴンハオムナイダ):恐れ多いことでございます。身に余るお言葉をいただいた時など。
- 당치 않사옵니다 (タンチ Ансаоムニダ):とんでもないことでございます。過分な褒め言葉や、ありえない提案などに対して。
- 죽을 죄를 지었사옵니다 (チュグル チェルル チオッサオムニダ):死罪に値する罪を犯しました。重大な失態を犯した時の謝罪。
【感謝・光栄】(主に臣下が王に対して)
- 망극하옵니다 / 망극하옵나이다 (マングカオムニダ / マングカオムナイダ):(王の恩恵などが)極まりなく、大変光栄でございます。王から褒美や恩恵を受けた時。
- 성은이 망극하옵니다 / 성은이 망극하옵나이다 (ソンウニ マングカオムニダ / ソンウニ マングカオムナイダ):「성은(聖恩)」=王の恩恵。上記と同様の意味。
【命令・呼びかけ】(主に王が臣下や目下の者に対して)
- 이리 오너라 (イリ オノラ):(者ども)こちらへ参れ。
- 안으로 드시지요 / 들라 하라 (アヌロ トゥシジオ / トゥルラ ハラ):中へお入りなさい / 中へ入れと伝えよ。
- 뫼시어라 (メシウォラ):(高貴な方を)お連れしなさい。
- 거기 앉거라 (コギ Анッコラ):そこへ座りなさい。
- 밖에 있는가? / 밖에 누구 없느냐? (パッケ インヌンガ? / Паッケ Нугу Оムヌニャ?):誰か外におらぬか?
- 물럿거라! (ムルロッコラ!):下がれ!
【受け答え】(主に臣下が王に対して)
- 그러하옵니다 (クロハオムニダ):さようでございます。
- 명심하겠사옵니다 (ミョンシマゲッサオムニダ):肝に銘じます。
- 잘 모르옵니다 (チャル モルオムニダ):(恐れながら)存じ上げません。
- 물러가겠사옵니다 (ムルロカゲッサオムニダ):(失礼して)下がらせていただきます。
- 분부대로 하겠사옵니다 (プンブデロ ハゲッサオムニダ):仰せの通りにいたします。
- 들으라 (トゥルラ):(臣下たちに)聞け。
- 여봐라 (ヨボァラ):(近くの者に)おい、聞け。
【その他】
- 통촉하여 주시옵소서 (トンチョカヨ ジュシオプソソ):(王様、どうか)お聞き入れくださいませ、お察しくださいませ。臣下が王に何かを強く訴える時。
- 부르셨습니까? / 부르셨사옵니까? (プルショッスムニッカ? / プルショッサオムニッカ?):お呼びでしょうか?(王や上官に呼ばれた時)
- 주상전하 납시오! (チュサンチョナ ナプシオ!):主上殿下(王様)のお成りです!
これらのフレーズは、現代語とはかけ離れているため、最初は聞き取るのも意味を理解するのも難しいかもしれません。しかし、何度も聞いているうちに、だんだん耳が慣れてくるはずです。
韓国時代劇をもっと楽しむためのヒント
呼称や言葉遣いのポイントが分かってきたところで、さらに時代劇を楽しむためのヒントをいくつかご紹介します。
まずは登場人物の関係性を把握する
ドラマが始まったら、まず意識してほしいのが登場人物たちの関係性です。誰が王で、誰が王妃か、世子は誰か、どの臣下がどの派閥か…などを相関図などで確認しておくと、複雑な人間関係やストーリー展開が理解しやすくなります。呼び方や言葉遣いも、関係性を読み解くヒントになります。
歴史的背景を少し調べてみる
ドラマの舞台となっている時代の歴史的な背景(どの王の時代か、どんな事件があったかなど)を少し調べておくだけで、物語への没入感が格段に変わってきます。なぜ登場人物たちがそのような行動をとるのか、その理由が歴史的背景から理解できるようになります。
言葉遣いの違いに注目してみる
誰が誰に対して、どのような呼称や敬語を使っているかに注目してみましょう。丁寧さの度合いや、時にはわざと無礼な言葉を使うことで、登場人物たちの間の力関係や感情の変化が巧みに表現されています。
魅力的なストーリーと俳優陣を楽しむ!
難しく考えすぎず、まずは魅力的なストーリー展開や、俳優たちの熱演を楽しみましょう!時代劇には、現代ドラマにはない壮大なスケールや、人間の愛憎、権力闘争などがダイナミックに描かれており、一度ハマると抜け出せない魅力があります。
まとめ:言葉を知れば、時代劇はもっと面白くなる!
韓国時代劇に登場する複雑な王族の呼び方(尊称)や、独特の丁寧語・フレーズ。最初は難しく感じるかもしれませんが、その意味や背景を知ることで、登場人物の関係性や時代背景への理解が深まり、ドラマをより一層楽しむことができるようになります。
「陛下(ペハ)」「殿下(チョナ)」「邸下(チョハ)」「媽媽(ママ)」といった敬称の違いや、「~옵니다」「~소서」といった最高敬語のニュアンスが分かれば、字幕だけでは伝わらない登場人物たちの感情や力関係まで読み取れるようになるかもしれません。
この記事を参考に、ぜひ韓国時代劇の世界にさらに深く浸ってみてください。言葉を知ることで、新たな発見と感動が待っているはずです!