韓国の若者が優先席に座らない理由

  1. 日常会話で覚える韓国語

韓国の優先席(老弱者席)問題:若者が座らない本当の理由とトラブル、制度の限界

韓国旅行で地下鉄やバスに乗った際、日本とは少し違う車内の光景に気づいたことはありませんか? 車内で突然始まる物売り、立っている人の荷物を座っている人が預かってあげる親切、そして、たとえ車内が混雑していても、なぜかポツンと空いている「優先席」…。特に、その優先席が空いていても、多くの若者が決して座ろうとしない姿は、外国人観光客にとって印象深い光景かもしれません。

かつて、ある日本人ジャーナリストがこの光景を「韓国の若者のマナーの良さ」として絶賛したこともありました。しかし、この一見美談のように見える現象の裏側には、現代韓国社会が抱える複雑な問題やジレンマが隠されています。今回は、韓国の「優先席(노약자석:ノヤクチャソク、老弱者席)」事情について、若者が座らない理由、制度が抱える問題点、そして社会的な議論まで、深く掘り下げていきます。

外国人には美談?「優先席に座らない韓国の若者」の現実

日本人ジャーナリストも絶賛した光景

ジャーナリストの若宮健さんが、かつて自身のブログで「韓国旅行で一番印象に残ったのは、優先席に決して座らない韓国の若者たちの姿だった」と称賛したように、外国人から見ると、この光景は「お年寄りや体の不自由な人を敬う、礼儀正しい若者たちの姿」として、非常にポジティブに映ることがあります。確かに、日本でも優先席はありますが、空いていれば若者が座ることも珍しくない光景と比較すると、際立って見えるかもしれません。

韓国の地下鉄で空いたままの優先席(老弱者席)と立っている若者

車内が混んでいても空いていることが多い老弱者席。若者が座らないのはなぜ?

しかし、韓国社会では新たな問題に?

ところが、この「若者が座らない優先席」という状況は、韓国国内では必ずしも美談としてだけ捉えられているわけではありません。むしろ、優先席制度そのもののあり方や、世代間の意識ギャップ、社会的なプレッシャーなど、様々な問題点を浮き彫りにする現象として、議論の的となっているのです。

なぜ若者は座らないのか?考えられる複数の理由

では、なぜ多くの韓国の若者は、目の前に優先席が空いていても座ろうとしないのでしょうか?その理由は一つではなく、いくつかの要因が複合的に絡み合っていると考えられます。

理由1:年長者への敬意と儒教文化の影響

最も一般的に考えられる理由は、儒教文化の影響が根強い韓国社会において、年長者を敬い、譲るという道徳観が依然として重視されていることです。特に公共の場において、お年寄りが立っているのに若者が座っている、ということに対する社会的な視線は厳しいものがあります。そのため、たとえ自分が疲れていても、後から乗ってくるかもしれないお年寄りのために席を空けておく、という意識が働いていると考えられます。

理由2:座ると叱責される?「老弱者席=敬老席」の強いイメージ

韓国の優先席は「노약자석(老弱者席)」という名称ですが、実際には「경로우대석(敬老優待席)」、つまり「お年寄りのための席」というイメージが非常に強いのが現実です。そのため、若者が座っていると、周囲の(特に年配の)乗客から「若いのに何故座っているんだ」「早く席を譲りなさい」と直接的に叱責されたり、非難がましい視線を向けられたりするケースが後を絶ちません。

このような経験をしたり、あるいはそうした場面を目撃したりすることで、「面倒なことに関わりたくない」「叱られるくらいなら立っていた方がましだ」と考え、初めから優先席には近づかない、座らないという若者が増えているのです。

理由3:本当に必要な人が座りにくい状況への諦め?

「老弱者席=敬老席」という固定観념(固定観念)が強すぎるあまり、本来優先されるべきである妊婦さんや、内部障がいを持つ人、怪我をしている人、体調が悪い人など、外見からは分かりにくいけれど席を必要としている若者や中年層が、非常に座りにくい状況が生まれています。座っていても、お年寄りが乗ってくると罪悪感を感じたり、周囲の視線が気になったりして、結局立たなければならない、という経験をする人も少なくありません。

こうした状況を目の当たりにし、「どうせ本当に必要な人が座れないのなら、自分が座る意味もない」と、ある種の諦めや制度への疑問から、席を空けておくという側面もあるかもしれません。

理由4:周囲の目を気にする意識

韓国社会は、良くも悪くも「人の目」を気にする文化が根強いと言われます。優先席に座っていることで、「マナーがない」「配慮がない」と他人から思われることを避けたい、という心理も働いていると考えられます。特にSNSなどで、優先席に座る若者を非難するような投稿が拡散されることもあるため、そうしたリスクを回避するために座らない、という選択をする人もいるでしょう。

優先席(老弱者席)が抱えるジレンマと問題点

若者が座らないという現象自体が、実は優先席制度がうまく機能していないことの表れであり、様々な問題点を内包しています。

「敬老席」イメージによる弊害:妊婦や内部障がい者が座りにくい

前述の通り、「老弱者席」が実質的に「敬老席」化してしまっていることで、本来優先されるべき多様な人々(妊婦、乳幼児連れ、内部障がい者、怪我人、体調不良者など)が、肩身の狭い思いをしたり、席を利用できなかったりするという問題が深刻化しています。見た目で判断され、「若いのに」と非難されることを恐れて、辛くても我慢してしまうケースが後を絶ちません。

「優先」以外は「非優先」?一般席での譲り合い減少?

「優先席(老弱者席)」という特定のエリアが設けられたことで、逆説的に「それ以外の席(一般席)は自由に座って良い」という意識が生まれ、一般席でお年寄りや妊婦さんなどに席を譲るという自発的な行為が、以前に比べて減ったのではないか、という指摘もあります。「優先席があるのだから、そちらへどうぞ」という心理が働きやすくなる、というわけです。結果として、優先席が空いていない場合、本当に席が必要な人がどこにも座れない、という状況も起こり得ます。

高齢者同士の譲り合いとトラブルの発生

優先席(老弱者席)が「敬老席」と見なされるため、高齢者の方々も自然と優先席エリアに集まる傾向があります。しかし、席の数には限りがあるため、優先席が埋まっている場合、立っている高齢者が出てきます。すると、座っている高齢者の中で「自分より年上に見える人に譲らなければ」という心理が働き、高齢者同士で席を譲り合う、という光景が見られることもあります。これは一見美しい光景のようですが、本来は一般席の乗客が率先して譲るべき状況かもしれません。

さらに、記事の事例のように、優先席をめぐって高齢者同士が年齢のことで口論になったり、トラブルに発展したりするケースも報告されています。

見た目では判断できない「必要な人」

根本的な問題として、席を必要としているかどうかは、必ずしも外見だけでは判断できない、という点があります。元気そうに見えても、持病があったり、疲れ切っていたりする人もいます。現在の優先席制度は、こうした「見えないニーズ」を持つ人々への配慮が十分に行き届いていない、という構造的な課題を抱えているのです。

後を絶たない?優先席をめぐるトラブル事例

残念ながら、優先席(老弱者席)をめぐる乗客間のトラブルは、日常的に発生しており、時にはニュースやSNSで取り上げられ、社会的な議論を呼ぶこともあります。

  • 年齢確認をめぐる口論・暴力沙汰: 記事にあるように、座っている人の見た目が若いという理由で注意し、口論から暴力事件にまで発展するケース。
  • * 妊婦や若者が座っていて注意されるケース: 妊娠初期でお腹が目立たない妊婦さんや、体調が悪くて座っている若者が、高齢者から「席を譲れ」と叱責されるケース。

    * スマートフォン使用などをめぐるトラブル: 優先席に座っている人がスマートフォンを操作していることに対し、「元気なくせに」と注意され、口論になるケース。

    * 荷物を置いて席を占領する行為への注意

これらのトラブルは、制度の曖昧さや、人々の間の認識のずれ、そしてコミュニケーション不足などが原因で発生していると考えられます。

韓国地下鉄のピンク色の妊産婦配慮席

妊婦さんへの配慮を促すピンク色の座席。効果は限定的との声も。

改善への取り組みとその実情

こうした問題を受け、韓国でも優先席(老弱者席)制度を改善しようとする様々な取り組みが行われています。

妊産婦配慮席(ピンク色の座席)の導入

特に座りにくさを訴える声が多かった妊婦さんへの配慮として、ソウル市の地下鉄などでは、2013年頃から車両の一部に「임산부 배려석(妊産婦配慮席)」が導入されました。座席カバーや床などがピンク色でデザインされ、妊婦を示すピクトグラムとともに、席を空けておくよう呼びかけるメッセージが表示されています。釜山など他の都市でも同様の取り組みが見られます。

「ピンクライト」などの実証実験

さらに一歩進んだ試みとして、釜山では、妊婦さんが持つキーホルダー型の発信機に反応して、配慮席近くのライトが点滅し、席を譲るよう促す「ピンクライト」システムの実証実験が行われたこともありました。(※現在は本格導入には至っていないようです。)

キャンペーンや啓発活動

公共交通機関や関連団体によって、優先席(老弱者席)は高齢者だけでなく、妊婦や障がい者など、様々な人が利用する席であること、そして相互配慮の重要性を訴えるキャンペーンや啓発活動も継続的に行われています。

取り組みの効果と限界

これらの取り組み、特に妊産婦配慮席の導入は、一定の意識向上には繋がったものの、残念ながら「席が空いていても座りにくい」「結局、男性や高齢者が座っている」といった声も多く聞かれ、制度が十分に機能しているとは言い難い状況も指摘されています。根本的な意識改革や、より実効性のある方策が求められています。

優先席はなくなるべき?社会的な議論と今後の展望

トラブルが絶えず、制度の形骸化も指摘される中で、韓国社会では優先席(老弱者席)のあり方について、様々な議論が交わされています。

優先席廃止論とその根拠

いっそのこと、優先席(老弱者席)という特定の座席指定をなくしてしまおう、という意見も根強くあります。その理由としては、

  • 特定の席を設けることで、かえって一般席での譲り合い精神が薄れる。
  • * 「老弱者席=敬老席」という誤った認識を助長し、本当に必要な他の人々が利用しにくくなる。

  • 席をめぐるトラブルの根本的な原因となる。

などが挙げられます。優先席をなくし、全ての席で、状況に応じて必要な人に譲り合うという、本来の「マナー」に委ねるべきだ、という考え方です。

存続を求める声と改善案

一方で、優先席(老弱者席)は、高齢化社会において依然として必要不可欠であり、なくすべきではない、という意見も多数あります。廃止すれば、特に自己主張が苦手な高齢者や障がい者が、席を譲ってもらえず、さらに移動が困難になる可能性がある、という懸念です。

存続させる上での改善案としては、対象者をより明確に示す表示の工夫、座席数の見直し、啓発活動の強化、譲り合いを促す新しいシステムの導入などが提案されています。

マナー意識向上と相互配慮の重要性

制度をどう変えるにせよ、最終的に重要となるのは、乗客一人ひとりのマナー意識と、他者への配慮の心です。「自分さえ良ければいい」という考えではなく、周りの状況を見て、困っている人がいれば自然に手を差し伸べる、席を譲る、という相互配慮の精神が社会全体に根付くことが、最も根本的な解決策と言えるでしょう。

記事中のKさんが言うように、「こちらにお座りください」という自発的な声が自然に聞かれる社会が理想なのかもしれません。

【会話例:若者の言い分?】

성광: 와, 빈 자리다!! (ワ ビン チャリダ)
ソンガン: わぁ、席空いてる!!

미례: 안돼. 노약자석이잖아. (アンデ ノヤクジャ ソギジャナ)
ミレ: だめだよ。老弱者席じゃない。

성광: 배 아파. 나도 노약자라구. (ベ アパ ナド ノヤクジャラグ)
ソンガン: おなか痛い。俺も(今は)老弱者だよ。

미례: 뭐라구~ . (モラグ)
ミレ: 何だって~。

(※体調が悪くても座りにくい、という若者の本音(?)が垣間見える会話例です。)

まとめ:優先席問題から考える韓国社会と「配慮」の形

韓国の「優先席(老弱者席)」をめぐる問題は、単なる交通機関のマナーの問題ではなく、儒教的な敬老思想と現代社会の価値観とのギャップ、世代間の意識の違い、そして「配慮」や「譲り合い」のあり方について、私たちに多くのことを考えさせます。

若者が優先席に座らない光景は、一見すると美しいマナーのように見えますが、その裏には、叱責への恐れ、制度への疑問、そして本当に席を必要とする人々が利用しにくいという現実が隠れている場合があります。妊産婦配慮席などの改善策も導入されていますが、根本的な解決には至っていません。

優先席を維持するにせよ、廃止するにせよ、最も大切なのは、制度だけに頼るのではなく、私たち一人ひとりが、周囲の人々に関心を持ち、困っている人がいれば自然に手を差し伸べられるような、温かい相互配慮の心を育んでいくことなのかもしれません。韓国の優先席問題は、日本を含む他の国々にとっても、共生社会における「配慮」のあり方を考える上で、示唆に富む事例と言えるでしょう。

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ソヨン (서연) この記事を書いた人

講師歴20年超、ソウル出身のネイティブスピーカー。延世大学卒業後、明治大学で学ぶ。大阪朱友外語学院、アイザック外国語学校、龍谷大学外国語文化センター等での豊富な講師経験に加え、同時通訳経験も有する。
ネイティブならではの綺麗な標準語の発音指導。初級からビジネス、通訳レベルまで、学習者のレベルと目標に合わせた体系的かつ実践的なレッスン構築。
長年の指導経験に基づき、多くの学習者を目標達成(試験合格、流暢な会話力習得など)に導く。「使える」韓国語を確実に習得させる指導力に定評があり、教材作成、レッスンカリキュラム、講師育成など幅広い分野で活躍。

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