【最新版】韓国の試験制度ガイド:過酷な大学入試「修能(スヌン)」から日本語会話力SJPTまで
「勉強」は、韓国社会を理解する上で欠かせないキーワードの一つです。特に、将来を左右するとされる「試験」に対する意識は、日本とはまた違った熱量と厳しさを持っています。日本のセンター試験(現:大学入学共通テスト)にあたる試験はもちろん、社会人になってからもスキルアップのための様々な試験が存在します。
今回は、韓国の熾烈な教育熱の背景にある「学歴社会」の実情から、国民的な一大イベントとも言える大学修学能力試験「修能(スヌン)」、そして少しユニークな社会人向けの日本語会話能力試験「SJPT」まで、韓国の試験事情について詳しくご紹介します。
背景にある「学歴社会」と熾烈な教育熱
韓国の試験制度を語る上で、まず理解しておきたいのが「学歴社会」という側面と、それに伴う教育熱の高さです。
なぜ韓国は学歴社会なのか?歴史的・社会的要因
韓国で学歴が重視される背景には、歴史的に官僚登用試験「科挙」が存在したことや、儒教の影響で知識人や学者が尊重されてきた文化があります。近代以降も、日本統治時代や戦後の急速な経済発展期において、学歴が個人の社会的な地位や成功を決定づける重要な要素となりました。
特に、厳しい就職難の中で、ソウル大学(S)、高麗(コリョ)大学(K)、延世(ヨンセ)大学(Y)をはじめとする名門大学(通称SKY)の卒業生が、大手企業や官公庁への就職に有利とされる「学閥」意識も根強く存在します。良い大学に入ることが、安定した将来へのパスポートと見なされる傾向が強いのです。
小学生からの塾通いは当たり前?早期教育の実態
こうした背景から、韓国では子どもに対する教育投資が非常に重視され、「教育熱」は世界でもトップクラスと言われています。良い大学に入るためには、幼い頃からの準備が不可欠と考えられており、小学生、甚至は幼稚園の頃から塾(학원:ハグォン)に通うのが半ば当たり前の光景となっています。英語はもちろん、数学、国語、科学、さらには芸術やスポーツに至るまで、様々な分野での早期教育が行われています。
江南(カンナム)に象徴される教育格差
特に、ソウルの江南(カンナム)エリアは、有名大学への進学率が高い名門高校や、優秀な講師陣を揃えた大手予備校・塾が集中する「教育特区」として知られています。教育環境を求めて江南に引っ越す家庭も多く、教育熱の高さと同時に、地域による教育格差の問題も指摘されています。
近年の変化と課題(過熱競争への反省など)
しかし近年では、過度な私教育費の負担、受験競争のストレス、学歴偏重社会への批判などから、変化の兆しも見られます。政府による公教育の強化策、大学入試における学力以外の要素(学生生活記録簿など)の重視、企業の「ブラインド採用」(学歴などを伏せて選考)導入の動きなど、学歴偏重を是正しようとする試みも進められています。それでもなお、根強い学歴社会の構造と高い教育熱は、韓国社会の大きな特徴であり続けています。
人生を賭けた一日?大学修学能力試験「修能(スヌン)」
韓国の教育システムにおいて、最も重要かつ象徴的な試験が、大学修学能力試験、通称「수능 (スヌン)」です。

「スヌン大当たり!」受験生への熱い応援は、韓国の冬の風物詩。
スヌンとは?韓国の大学入試の最重要関門
スヌンは、毎年11月の第3木曜日(※日程は年によって変動の可能性あり)に全国一斉に行われる、高校3年生(および浪人生)が大学入学のために受ける試験です。日本の大学入学共通テストに相当しますが、韓国ではこのスヌンの成績が大学合格、ひいては将来を大きく左右すると考えられており、受験生本人だけでなく、家族、そして社会全体にとって非常に重要な一日と位置づけられています。
試験科目と評価方法(最新情報に注意)
スヌンの試験科目は、大きく分けて国語、数学、英語、韓国史、探求(社会または科学から選択)、第2外国語/漢文の領域があります。英語と韓国史は絶対評価(一定の点数で等級が決まる)ですが、他の科目は相対評価(受験者全体の成績分布によって等級が決まる)が基本となっています。(※科目構成や評価方法は変更される可能性があるため、常に最新情報を確認してください。)
また、韓国教育放送公社(EBS)の教材から多くの問題が出題される(連携率)のも特徴でしたが、近年この連携率は低下・変更される傾向にあります。
試験当日の異様な雰囲気:社会全体が受験生を応援?
スヌン当日は、韓国社会全体が受験生をサポートする体制になります。
- 交通規制: 受験生の移動を妨げないよう、官公庁や一部企業の出勤時間が繰り下げられます。試験会場周辺では交通規制が敷かれ、遅刻しそうな受験生をパトカーや白バイが送り届ける光景も見られます。
- 騒音防止: 英語のリスニング試験の時間帯には、航空機の離着陸が禁止されるなど、騒音に対する最大限の配慮がなされます。
- 応援合戦: 試験会場の校門前では、後輩たちが先輩のためにプラカードを掲げたり、歌や太鼓で応援したりする、熱のこもった応援風景が繰り広げられます。
このように、国を挙げての一大イベントとなっているのがスヌンの特徴です。しかし、その一方で、試験当日に限って毎年寒波に見舞われたり、雪が降ったりすることが多い、というジンクスもあります。
スヌン結果が人生を左右する?学歴社会の現実
「スヌンで人生が決まる」という言葉があるように、韓国ではスヌンの点数が、どの大学に入れるか、そしてその後の就職や人生設計にまで大きな影響を与えると信じられています。希望の大学に入れなかった場合、浪人(재수:チェス、再修)して翌年再挑戦する学生も少なくありません。
もちろん、スヌンの結果が人生の全てではありませんが、学歴が重視される社会である以上、この試験が持つ重みは非常に大きいと言わざるを得ません。
近年の入試制度の変化(随時選考との関係)
ただし、近年は大学入試制度も多様化・複雑化しています。スヌンの成績のみで合否が決まる「정시 (チョンシ:定時選考)」だけでなく、高校時代の成績(内申点)や課外活動、自己紹介書、面接などを総合的に評価する「수시 (スシ:随時選考)」の比重も大きくなっています。スヌン一発勝負ではなくなったものの、多くの随時選考ではスヌンの最低基準点(足切り)が設けられている場合もあり、依然としてスヌンの重要性は高いままです。
社会人のスキルアップ?会話能力試験の世界
熾烈な大学入試を終え、社会人になってからも、韓国では自己啓発やスキルアップのための試験が重視される傾向があります。その一つとして、語学の「会話能力」を測る試験が注目されています。
なぜ会話力が重視されるのか?
グローバル化が進む現代において、単なる読み書き能力だけでなく、実際にコミュニケーションが取れる「話す力」がビジネスシーンでますます重要になっています。特に韓国は輸出主導型経済であり、海外との取引や交流が活発なため、英語はもちろん、日本語や中国語などの会話能力を持つ人材が高く評価される傾向があります。

ビジネスで求められる会話力。SJPTなどのスピーキングテストで能力を証明する人も。
日本語会話能力試験「SJPT」とは?
この記事で紹介されている「SJPT(Spoken Japanese Proficiency Test)」は、まさにその日本語の「会話能力」を測定するために開発された試験です。(開発元はYBM傘下のETS Koreaなど。日本でも実施されています。)
- 試験形式(CBT、録音方式): 受験者はコンピューターの画面を見ながら、ヘッドセットを通して流れてくる日本語の質問を聞き、マイクを通して日本語で回答します。回答は録音され、後日、専門の評価者によって採点されます。
- 評価基準: 自己紹介、質疑応答、ロールプレイング、ストーリーテリングなど、様々な形式の質問を通して、発音、語彙、文法、流暢さ、内容の適切さなどが総合的に評価されます。評価はLevel 1から最高のLevel 10(ネイティブスピーカーレベル)までの10段階で示されます。
- 活用場面: 韓国では、一部の大手企業などで、社員の日本語能力評価や昇進の際の参考資料としてSJPTのスコアが活用されていると言われています。また、個人の日本語会話力証明や、学習目標設定のためにも利用されています。
- 日本での実施状況: 日本国内でもSJPTは実施されており、日本語学習者や、ビジネスで日本語を使う外国人などが受験しています。
SJPT以外のスピーキングテスト(OPIc日本語など)
日本語の会話能力を測る試験としては、SJPT以外にも「OPIc(Oral Proficiency Interview – computer)日本語」などがあります。OPIcは、より自由な形式で、受験者の興味や経験に関する質問に答えていくインタビュー形式のテストで、こちらも韓国の企業などで広く採用されています。どちらの試験も、従来の筆記試験(JLPTなど)では測れない「話す力」を評価する点で共通しています。
会話力試験対策のポイント
これらのスピーキングテストで高得点を目指すには、単語や文法知識だけでなく、実際に声に出して話す練習が不可欠です。制限時間内に、質問の意図を正確に理解し、適切な語彙と文法を使って、論理的かつ自然に話す能力が求められます。日頃から日本語で考え、話す習慣をつけることが重要です。
【会話例:試験の感想】
가: 오늘 SJPT라는 시험을 봤는데…
今日、SJPTという試験をうけたんだけど나: 어땠어? 잘 봤어?
どうだった?よくできた?가: 시간이 모자라 답변을 제대로 못했어.
時間がたりなくて、うまく答えられなかったよ나: 어려운 시험인가보네.
難しい試験みたいだね
まとめ:試験から見える韓国社会と求められる能力
韓国の試験事情は、その国の社会構造や価値観、そして時代とともに変化する求められる能力を映し出す鏡と言えるかもしれません。人生を左右するとまで言われる大学入試「スヌン」は、依然として韓国社会における学歴重視の側面を象徴していますが、そのあり方も少しずつ変化しています。一方で、SJPTのような会話能力テストの存在は、グローバル化が進む中で、単なる知識だけでなく、実践的なコミュニケーション能力が社会でますます重要視されていることを示唆しています。
これらの試験制度を知ることは、韓国社会や文化、そして人々の考え方を理解するための一つの手がかりとなるでしょう。もし韓国への留学や就職、あるいはビジネスに関心があるなら、こうした試験事情についても知っておいて損はありません。