近年、日本でもニュースで耳にする機会が増えた「通り魔事件」。被害者との接点や明確な動機がなく、不特定多数を狙う理不尽な犯罪は、私たちの日常に大きな不安をもたらします。
実は、お隣の韓国でも同様の事件が増加傾向にあり、社会問題として注目されています。韓国ではこうした犯罪を「묻지마 범죄 (ムッチマ ポмジェ)」と呼びます。直訳すると「尋ねるな犯罪」。一体どういう意味なのでしょうか?
この記事では、「묻지마 범죄」の意味や背景、韓国での最新事情を解説するとともに、韓国旅行や滞在をより安全に過ごすための注意点や、いざという時に役立つかもしれない韓国語フレーズをご紹介します。少し怖いテーマかもしれませんが、現状を知り、備えることは、安心して韓国を楽しむためにも大切なことです。
【怖いけど知っておきたい】韓国の「묻지마 범죄(通り魔)」最新事情と安全のための注意点・韓国語フレーズ
目次
韓国で増加?「묻지마 범죄(ムッチма ポмジェ)」とは何か
まず、「묻지마 범죄」という言葉の意味と、その背景にある韓国社会の状況について見ていきましょう。

「尋ねるな犯罪」- 意味と語源
「묻지마 범죄 (ムッチма Помдже)」は、文字通りには「尋ねるな 犯罪」という意味です。これは、
『물어도 소용 없으니, 묻지 마라 (Муродо Соёнъ Опсыни, Муччи Мара)』
(尋ねても無駄(意味がない)から、尋ねるな)
という考え方から生まれた言葉だとされています。犯行の動機が極めて個人的・衝動的であったり、被害者との間に何の関連性もなかったりするため、犯人に「なぜ?」と尋ねても、常人には到底理解できない、あるいは意味のある答えが返ってこないような犯罪を指します。日本語の「通り魔犯罪」「無差別殺傷事件」に相当する概念です。
例えば、「生活が苦しいから腹いせに」「ただむしゃくしゃしていたから」「自分より幸せそうに見えたから」といった、身勝手で理不尽な理由で、たまたまそこに居合わせただけの不特定多数の人々がターゲットにされるのが特徴です。
なぜ起こるのか?韓国社会の背景と現状
近年、韓国でも「묻지마 범죄」と報じられる事件が増加傾向にあり、社会に大きな衝撃と不安を与えています。専門家やメディアでは、その背景として様々な要因が指摘されています。
- 経済格差の拡大と社会的孤立: 厳しい競争社会の中で経済的に困窮したり、社会から疎外されたりすることによる不満や絶望感が、歪んだ形で他者への攻撃性に向かうケース。記事原文にもあるように、犯人に無職や低所得者が多いというデータも、この側面を示唆しています。
- 精神疾患との関連: 犯行時に精神疾患(統合失調症、うつ病、反社会性パーソナリティ障害など)を抱えているケースも少なくないと指摘されています。適切な治療や支援を受けられずに症状が悪化し、事件に至る場合があると考えられています。
- 社会への不満とストレス: 就職難、高い生活費、将来への不安など、社会全体に漂うストレスや閉塞感が、一部の人々の攻撃性を増幅させる土壌になっている可能性も指摘されています。
- メディアの影響: 衝撃的な事件が繰り返し報道されることで、模倣犯を誘発したり、社会不安を煽ったりする側面も懸念されています。
これらの要因が複雑に絡み合って、「묻지마 범죄」の発生につながっていると考えられており、韓国政府や社会全体で、経済的支援、精神保健福祉の充実、社会的セーフティネットの強化といった対策が模索されています。
日本の通り魔事件との比較
動機や背景に類似点も見られる一方で、韓国では刃物を使った事件が比較的多いとされるなど、細かな特徴には違いもあるかもしれません。しかし、どちらの国においても、社会的な要因と個人的な要因が複合的に絡み合って発生する、根深い問題である点は共通しています。
怖いけど知っておきたい「묻지마 범죄」の最新事情
具体的な事件に触れることは控えますが、近年韓国では、ソウルの繁華街や地下鉄駅など、人通りの多い場所で突然見知らぬ人に危害を加えるといった事件が複数発生し、大きく報道されました。これにより、多くの市民が日常生活における安全への不安を感じるようになりました。
最近の報道や事件例(概要のみ)
報道によると、犯行は昼夜を問わず、また特定の場所(駅、繁華街、公園など)に偏る傾向も見られます。凶器が使われるケースも多く、社会に与える衝撃は計り知れません。これらの事件を受け、特定のコミュニティ(主にオンライン)では、犯行を予告するような書き込みが現れ、さらなる不安を煽る事態も発生しました。警察当局は、こうした書き込みに対しても捜査を強化しています。
社会的な議論と対策の動き
相次ぐ事件を受け、韓国社会では「묻지마 범죄」の原因究明と対策に関する議論が活発に行われています。前述の社会的・経済的要因への対策に加え、以下のような点が議論されています。
- 精神疾患者への支援強化と偏見解消: 適切な治療と社会復帰支援の重要性、そして精神疾患に対する社会的な偏見をなくす必要性が訴えられています。
- 防犯体制の強化: 警察官の巡回強化、防犯カメラ(CCTV)の増設、危険物(刃物など)の管理強化などが検討・実施されています。
- 社会的孤立の防止: 地域コミュニティの活性化や相談窓口の充実などを通じて、社会的に孤立する人々を早期に発見し、支援につなげる取り組みの重要性が指摘されています。
- 厳罰化の声: 一方で、凶悪犯罪に対する厳罰化を求める世論も高まっています。
これらの対策が効果を発揮し、誰もが安心して暮らせる社会になることが強く望まれています。
もしもの時に… 韓国で身を守るための基礎知識
「묻지마 범죄」は予測が難しく、完全に避けることは困難ですが、万が一の状況に備えて、基本的な知識といくつかの韓国語フレーズを知っておくことは、自身の安全を守る上で役立つかもしれません。

緊急連絡先:警察(112)・消防/救急(119)のかけ方
韓国での緊急連絡先は以下の通りです。日本の110番、119番とは番号が少し違うので注意しましょう。
- 警察:112 (事件・事故の通報)
- 消防・救急:119 (火事・救急患者の通報)
公衆電話や携帯電話から無料でかけることができます。落ち着いて、現在地(分かる範囲で)、状況を伝えましょう。外国人であることを伝えれば、対応可能なオペレーターにつないでくれる場合もあります(「저는 외국인입니다 – チョヌн Вегугинимнида – 私は外国人です」)。
覚えておきたい安全関連の韓国語フレーズ
緊急時や危険を感じた時に使えるかもしれない基本的なフレーズです。大きな声で叫ぶことが重要です。
助けを求める:「도와주세요! (Тоwаджюсеё!)」
「助けてください!」という意味の最も基本的なフレーズです。危険が迫っている時、周囲に助けを求めます。
危険を知らせる:「위험해요! (Вихомеё!)」
「危ないです!」「危険です!」という意味。自分や他の人に危険が及んでいることを知らせます。
警察を呼んでほしい時:「경찰 불러주세요! (Кёнчхаль Пуллоджюсеё!)」
「警察を呼んでください!」という意味。自分で通報できない場合に周囲の人にお願いします。
その他
- 사람 살려! (Сарам Саллё!):人殺し!(直訳は「人を助けて!」だが、切迫した状況で使われる)
- 불이야! (Пурия!):火事だ!
- 도둑이야! (Тодугия!):泥棒だ!
- 하지 마세요! (Хаджі масеё!):やめてください!
- 저리 가세요! (Чори касеё!):あっちへ行ってください!
- 도망가세요! (Томанггасеё!) / 피하세요! (Пхихасеё!):逃げてください!
これらのフレーズを使う必要がないのが一番ですが、万が一のために頭の片隅に入れておくと良いかもしれません。
旅行者が特に注意すべきこと
韓国は比較的治安の良い国とされていますが、どこの国でも危険な場所や時間帯は存在します。以下の点に注意して、安全意識を持つことが大切です。
- 夜遅くの一人歩き、特に人気のない路地裏などは避ける。
- 治安が良くないとされるエリアには近づかない。(旅行前に情報を確認しましょう)
- 酔っ払いに絡まれないように注意する。
- 見知らぬ人に安易についていかない。
- 常に周囲の状況に気を配る。(歩きスマホなどは控える)
- 貴重品の管理をしっかりする。(スリや置き引きにも注意)
- 万が一に備え、海外旅行保険に加入しておく。
- 現地のニュースに関心を持つ。(大きな事件があった場合など)
日常会話から学ぶ:「怖い」「心配」を表す表現
記事の元の会話例にも出てきたように、「怖い」「心配だ」といった感情を表す表現も、安全意識と関連して覚えておくと良いでしょう。
会話例で見る「무서워 죽겠어요 (Мусоwо Чюкессоё)」
여성: 요즘 밤길 혼자 걷기가 무서워 죽겠어요. 누가 따라오는 것 같아서요.
(Йоджым Памкиль Хонджа Коткига Мусоwо Чюкессоё. Нуга Ттараонын Кот Катхасоё.)남성: 그렇죠. 뉴스 보면 흉흉한 사건도 많으니까요. 늦은 시간에는 택시를 타거나 친구랑 같이 다니는 게 좋겠어요.
(Кырочхё. Нюсы Помён Хюнъхюнхан Саккондо Манхыниккаё. Ныджын Щиганенын Тхэксирыль Тхагона Чхингуранг Качхи Танинын Ке Чоккессоё.)女性:最近、夜道を一人で歩くのが怖くて死にそうです。誰かがついてくるみたいで。
男性:そうですよね。ニュースを見ると物騒な事件も多いですからね。遅い時間にはタクシーに乗るか、友達と一緒に歩くのがいいでしょうね。
文法解説:「-죽겠다 (-чюкеッta)」「-채 (-чхэ)」の使い方
元の記事でも解説がありましたが、補足します。
「形容詞/動詞の語幹 + -아/어 죽겠다 (-а/о чюкеッta)」 は、「~で死にそうだ」という意味で、その状態が極度に達していることを強調する口語表現です。主に、ネガティブな状態(暑い、寒い、お腹が空いた、疲れた、眠い、怖い、痛いなど)や、時にはポジティブな状態(可愛いすぎて死にそう 귀여워 죽겠다、嬉しすぎて死にそう 기뻐 죽겠다 など)の強調にも使われます。(※元の記事ではネガティブのみとありましたが、ポジティブな感情の極度の強調にも使われます)
- 더워 죽겠다 (Тоwо чюкеッta):暑くて死にそうだ
- 배고파 죽겠다 (Пэгопха чюкеッta):お腹が空いて死にそうだ
- 힘들어 죽겠다 (Химдыро чюкеッta):しんどくて死にそうだ
- 보고 싶어 죽겠다 (Пого щипхо чюкеッta):会いたくて死にそうだ
「名詞 + -채 (-чхэ)」 は、「~のまま」「~ごと」という意味で、ある状態や物がそのまま全部であることを表します。
- 이불채 (Ибульчхэ):布団ごと、布団のまま
- 껍질채 (Ккопчильчхэ):皮ごと
- 통째로 (Тхонччэро):「丸ごと」という意味でよく使われる表現。
「動詞の語幹 + -(으)ㄴ 채 (-(ын/н) чхэ)」 は、「~したまま(の状態で)」という意味で、ある動作が完了した状態が維持されていることを表します。
- 옷을 입은 채 (Осыль ибын чхэ):服を着たまま
- 눈을 감은 채 (Нуныль камын чхэ):目を閉じたまま
- 모자를 쓴 채 (Моджарыль ссын чхэ):帽子をかぶったまま
番外編:「묻지마 관광 (Муччима Куангуан)」とは?知られざる韓国の俗語
「묻지마」という言葉は、犯罪以外にも使われることがあります。元の記事で紹介されている「묻지마 관광 (Муччима Куангуан)」は、その一例です。
「聞くな観光」の意味と実態(簡潔に)
これは直訳すると「聞くな観光」となり、主に中高年層を対象とした、見ず知らずの男女が日帰りや1泊2日程度のバス旅行に参加し、その場でパートナーを見つけて楽しむという、ややアンダーグラウンドな形態の団体旅行を指す俗語です。参加者の素性や目的について「(野暮なことは)聞かないで」という意味合いが込められており、一部では不倫の温床になっているとも言われています。社会の一側面を示す興味深い俗語ですが、公の場で使うのは避けた方がよい言葉でしょう。
まとめ:現状を知り、安全に韓国滞在を楽しむために
今回は、韓国で社会問題化している「묻지마 범죄 (ムッチма Помдже)」という言葉の意味や背景、そして韓国で安全に過ごすための注意点や関連フレーズについて解説しました。
残念ながら、日本と同様に韓国でも、いつどこで理不尽な事件に巻き込まれるか分からないという側面は否定できません。しかし、過度に恐れるのではなく、現状を正しく理解し、基本的な安全対策(危険な場所や時間を避ける、周囲に気を配る、緊急連絡先を知っておくなど)を心がけることが大切です。

韓国は依然として魅力的な観光地であり、多くの人々が安全に旅行や生活を楽しんでいます。今回学んだ知識やフレーズが、皆さんの安全意識を高め、より安心して韓国での滞在を楽しむための一助となれば幸いです。そして、語学学習を通じて、その国の文化や社会の良い面だけでなく、抱える課題にも目を向けることは、より深い理解につながるでしょう。