驚かないで!韓国の民防(防災)訓練|サイレンの意味と対処法、地震への備え【2025年最新】
韓国旅行中に突然、街中にけたたましいサイレンが鳴り響き、車が止まり、人々が一斉に地下や建物の中に避難し始める… もしそんな場面に遭遇したら、多くの外国人観光客は「何事!?」「もしかして、北朝鮮が…?」と驚き、不安に駆られるかもしれません。筆者も、アパートで初めてそのサイレンを聞いた時、本気で戦争が始まったのかと勘違いし、パニックになった経験があるそうです。
でも、ご安心ください。多くの場合、それは韓国で定期的に行われている「민방위 훈련(ミンバンウィ フルリョン:民防衛訓練)」、つまり防災訓練の一環です。今回は、この韓国ならではの民防訓練とは何なのか、なぜ行われているのか、そしてもし旅行中に遭遇した場合にどう対処すればよいのか、さらに近年関心が高まっている地震への備えも含めて、詳しく解説していきます。(※情報は2025年4月現在のものです。訓練の頻度や内容は変更されることがあります。)
目次
突然のサイレン!「民防訓練」とは?
「民防衛(민방위:ミンバンウィ)」とは、敵の軍事的な侵略(空襲など)や、地震、火災、テロといった大規模な災害・事変が発生した際に、国民の生命と財産を守るために行われる、民間人主体の非軍事的な防衛・救護活動のことです。そして「民防訓練」は、そうした有事に備えるための実践的な訓練を指します。
民防(ミンバンウィ)の目的:戦争と災害への備え
民防訓練の主な目的は、以下の二つです。
- 戦争(特に北朝鮮による空襲など)への備え: 警報発令時の迅速な避難行動、避難場所の確認、応急処置などを訓練します。
- 大規模災害(地震、火災、テロなど)への備え: 近年はこちらの重要性が増しており、災害発生時の避難、初期消火、救助・救護活動などを訓練します。
国民一人ひとりが、いざという時に自分の身を守り、互いに助け合えるようにするための訓練なのです。
休戦下の国ならではの歴史的背景
韓国が現在も北朝鮮と「休戦」状態にある、という事実が、民防訓練が重視される大きな背景となっています。朝鮮戦争(1950-1953)の記憶、そして常に存在する北朝鮮からの軍事的脅威(過去には実際に北朝鮮による浸透事件や砲撃事件なども発生しています)に備えるため、国民的な防衛意識を高め、有事対応能力を維持する必要があると考えられてきました。
訓練中に交通が完全に停止し、街全体が一時的に静寂に包まれる光景は、外国人にとっては非日常的かもしれませんが、韓国の人々にとっては、自分たちが置かれている安全保障環境を再認識させる機会ともなっています。
訓練の種類と内容(空襲警報、災害対応など)
民防訓練には様々な種類があります。
- 空襲警報対応訓練: サイレンとともに、空襲警報が発令された状況を想定し、指定された避難場所(地下鉄駅、建物の地下など)へ避難する訓練。交通統制が行われることもあります。
- 災害対応訓練: 地震、火災、化学テロなどを想定し、初期消火、応急処置、避難経路の確認などを行う訓練。地域や職場、学校単位で行われることが多いです。
- その他: 放射能漏れ事故対応、心肺蘇生法講習など、特定の状況を想定した訓練もあります。
近年は、北朝鮮の脅威だけでなく、地震などの自然災害や社会的な災害への対応能力を高める訓練に、より重点が置かれる傾向にあります。
サイレンの種類と意味を知っておこう
民防訓練や実際の有事の際に鳴らされるサイレンには、種類があり、それぞれ意味が異なります。基本的なものを知っておくと、いざという時に落ち着いて対応できます。
- 警戒警報(경계경보:キョンゲキョンボ): 空襲などが予想される場合。1分間の波状音(~~~~)が鳴ります。避難準備を開始し、放送に注意します。
- 空襲警報(공습경보:コンスプキョンボ): 空襲が差し迫っている、または開始された場合。3分間の直線音(――――)が鳴ります。直ちに避難場所へ避難します。
- 災害警報/訓練(재난경보/훈련:チェナンキョンボ/フルリョン): 地震や火災などの災害時、または訓練時。状況に応じて異なる音声案内やサイレンが使われます。訓練の場合は、事前に告知されたり、「これは訓練です」という放送が入ったりすることが多いです。
- 警報解除(경보해제:キョンボヘジェ): 警報状況が解除された場合。通常、音声放送などで行われます。
(※サイレンの鳴り方や種類は変更される可能性もあります。最新の情報にご注意ください。)
民防訓練、いつ・どのように行われる?【2025年最新情報】
かつては毎月15日に全国一斉に、交通統制を伴う大規模な訓練が行われていましたが、近年その形式は変化しています。
実施頻度・日時の変化:毎月15日全国一斉ではなくなった?
現在では、**毎月定例で全国一斉に交通統制まで行う大規模な訓練は、基本的に行われていません。** 国民生活への影響や形骸化への批判などから、訓練のあり方が見直されたためです。
代わりに、以下のような形で実施されることが多くなっています。
- 中央主管訓練: 政府主導で、特定の脅威(例:北朝鮮の空襲、大規模テロ)を想定し、年に数回、全国または特定地域で実施。サイレンや避難指示、一部交通統制が行われる場合があります。
- 地域特化型訓練: 各地方自治体が、その地域の特性(例:地震多発地域、沿岸部、工業団地など)に合わせて、特定の災害を想定した訓練を随時実施。
- 職場・学校訓練: 各企業や学校が、独自に避難訓練や消火訓練などを実施。
そのため、「毎月15日」という認識は現在では当てはまりません。大規模な訓練が実施される場合は、事前にニュースや行政機関からの告知があります。
訓練中の行動:交通統制、避難指示
訓練の種類や規模によりますが、空襲警報などを想定した訓練では、以下のような行動が求められます。
- サイレン吹鳴: 上記の警報サイレンが鳴ります。
- 放送による指示: ラジオ、テレビ、街頭スピーカーなどから、状況や避難指示に関する放送が流れます。
- 避難: 屋外にいる場合は、近くの地下鉄駅、建物の地下階、地下道などの指定された避難場所(대피소:テピソ)へ速やかに移動します。避難場所には通常、標識が設置されています。屋内にいる場合は、窓から離れ、電気やガスを消して待機します。
- 交通統制: 大規模な訓練の場合、車両は道路脇に停車し、バスや地下鉄も一時運行を停止することがあります。時間は通常15分~20分程度です。
国民の参加意識の現状と課題
訓練の頻度や強制力が以前より低下したこともあり、国民の間での民防訓練に対する関心度や緊張感は、全体的に低下傾向にあるとも指摘されています。特に若い世代にとっては、現実味のない形式的な行事と捉えられている側面もあります。一方で、相次ぐ災害や安全保障環境の変化を受け、実践的な防災・危機管理能力の向上の必要性を訴える声も高まっており、訓練のあり方については今後も議論が続くものと思われます。

サイレンが聞こえたら、落ち着いて周囲の状況を確認し、指示に従って避難しましょう。
旅行中に民防訓練に遭遇したら?旅行者向けの対処法
もし韓国旅行中に、運悪く(?)民防訓練、特にサイレンや交通統制を伴う訓練に遭遇した場合、どうすれば良いのでしょうか?
パニックにならず、周りの人の動きを見る
まず、突然のサイレンに驚くかもしれませんが、慌てないことが大切です。多くの場合、それは訓練であり、実際の危険が迫っているわけではありません。周囲の韓国人の人々がどのように行動しているかを観察しましょう。皆が落ち着いて避難しているようであれば、それに倣うのが基本です。
屋内にいる場合は?屋外にいる場合は?
- ホテルや建物内にいる場合: 窓から離れ、テレビや館内放送などの情報に注意しましょう。ホテルのスタッフなどの指示に従ってください。
- 屋外にいる場合: 近くの地下鉄駅、地下商店街、大きな建物の地下階など、避難場所(대피소)の標識がある場所へ移動しましょう。分からなければ、周りの人(警察官、案内員、店員など)に尋ねるか、人の流れについていくのが良いでしょう。「대피소 어디예요? (テピソ オディエヨ?:避難場所はどこですか?)」と聞いてみましょう。
避難場所検索アプリ(例:안전디딤돌 アプリなど)を事前にダウンロードしておくのも役立ちます。
交通機関(バス、タクシー、地下鉄)への影響
交通統制が行われる訓練の場合、乗車中のバスやタクシーは一時的に運行を停止します。運転手の指示に従い、車内で待機しましょう。地下鉄も駅間で一時停止することがありますが、通常はすぐに運行を再開します。移動計画には多少の遅れが生じる可能性があることを念頭に置きましょう。
「郷に入っては郷に従え」:協力する姿勢が大切
記事の会話例にもあるように、「로마에 가면 로마의 법을 따르라(ローマに行けばローマの法に従え=郷に入っては郷に従え)」という言葉があります。外国人観光客だからといって無視するのではなく、訓練の趣旨を理解し、周りの人々と同様に指示に従い、協力する姿勢を示すことが大切です。訓練は通常15分~20分程度で終了します。
【会話例:訓練への戸惑い】
일본인 : 지난번에 택시타고 있었는데 갑자기 사이렌이 윙 울려서 차가 멈춰서 꼼짝도 못하고 있었거든.
日本人:この間タクシーに乗っていたんだけど、突然サイレンがウィーンって鳴って、車が停まって全く動けなかったんだよ。(꼼짝 못하다:꼼짝 手足などをちょっと動かすこと + 못하다 できない = 身動きできない)한국인 : 민방위 훈련 때문에 그랬던거지.
韓国人:民防訓練のためだったんでしょ。일본인 : 그런 시간에 훈련을 하다니 바쁜 사람은 어떻게 하라고.
日本人:そんな時間に訓練をするなんて、忙しい人はどうしろっていうんだよ。한국인 : 야. 로마에 가면 로마의 법을 따르라는 말 몰라?
韓国人:おい、「ローマに行けばローマの法に従え(郷に入っては郷に従え)」って言葉知らないの?
韓国男性の「国防義務」:兵役・予備軍・民防衛
民防訓練は、韓国男性に課せられた「国防の義務」とも関連しています。
兵役後の長い務め:予備軍と民防衛
韓国の成人男性は、特別な理由がない限り、原則として兵役の義務(現役服務期間は陸軍で約18ヶ月など)を果たさなければなりません。しかし、兵役を終えて除隊(転役)すれば、それで終わりではありません。
- 予備軍(예비군:イェビグン): 除隊後8年間は予備軍に編入され、年に数日間、招集訓練(軍服着用)を受けます。有事の際には召集され、現役軍人と同様に戦闘などに従事します。
- 民防衛隊(민방위대:ミンバンウィデ): 予備軍の期間が終了した後、満40歳になるまでは民防衛隊に編入されます。
つまり、兵役後も長期間にわたり、国防や災害対応に関わる義務を負うことになるのです。
民防衛隊員の役割と訓練
民防衛隊員は、平時には年に1回(または数回、年次による)の民防衛教育・訓練に参加する義務があります。訓練内容は、以前は公民館のような場所に集まって講義を受ける形式が主でしたが、近年はオンライン教育も導入されています。また、実際の災害対応訓練などに参加することもあります。有事の際には、避難誘導、救助・救護、重要施設の警備など、地域社会を守るための様々な役割を担います。
地震への備えは?韓国の防災意識と対策の現状
かつて韓国は「地震安全地帯」と考えられてきましたが、近年その認識は大きく変わりました。

地震はどこで起きるかわからない。日頃からの備えが重要。
「地震安全地帯」ではなかった韓国:慶州・浦項地震の衝撃
2016年の慶州(キョンジュ)地震(M5.8)、2017年の浦項(ポハン)地震(M5.4)と、比較的規模の大きな地震が相次いで発生し、建物被害なども報告されたことで、韓国国民の間に地震への危機感が一気に高まりました。それまで地震対策への関心は、北朝鮮問題に比べて低い傾向がありましたが、これらの地震をきっかけに、状況は変化し始めました。
高まる防災グッズへの関心:日本の製品も人気?
地震以降、防災グッズへの関心が高まり、インターネット通販などを中心に、防災リュック、非常食、簡易トイレ、ヘルメットなどの売上が伸びました。特に、防災先進国である日本の製品(防災頭巾や多機能防災セットなど)に対する関心も高く、購入代行サービスなども登場したようです。
耐震設計基準の強化と課題
政府も地震対策の重要性を認識し、建築物の耐震設計基準を強化する動きを進めています。新築される建物に対しては、より厳しい基準が適用されるようになりました。しかし、基準強化以前に建てられた多くの既存建築物(特に低層住宅や古いビルなど)の耐震補強は十分に進んでおらず、今後の大きな課題となっています。
日常的な防災意識はまだ低い?「ケンチャナ精神」の影響も?
地震への危機感は高まったものの、日本のように地震が頻繁に起こる国と比較すると、日常レベルでの防災意識(家具の固定、避難経路の確認、家族との連絡方法の取り決めなど)は、まだ十分に浸透しているとは言えない状況かもしれません。記事の筆者の知人のように、「大丈夫だよ(괜찮아:ケンチャナ)」と楽観的に考えている人も依然として少なくないようです。
しかし、自然災害はいつどこで起こるかわかりません。日頃からの備えの重要性は、国を問わず共通です。
【会話例:地震への備え】
가: 어제 일어났던 지진… 정말 무서웠네.
昨日起きた地震。。。本当に怖かったね。나: 정말이야. 대비했어?
本当だよ。備えはした?가: 인터넷을 보니까 좋은 물품이 있었어. 그래서 사려고…
ネットを見たらいい物(防災グッズ)があったんだよ。だから、買おうかと。。。
旅行者としてできる備え
韓国旅行中に大きな地震に遭遇する可能性は低いかもしれませんが、万が一に備えておくことは大切です。
- 滞在先のホテルの避難経路を確認しておく。
- 日本の家族との緊急連絡方法を決めておく。
- スマートフォンの緊急速報メール(韓国の災害情報を含む)の設定を確認しておく。
- 簡単な応急処置セットや常備薬、モバイルバッテリーなどを携帯する。
- 日本の大使館や領事館の連絡先を控えておく。
まとめ:韓国の「もしも」に備える意識を知る
韓国旅行中に突然サイレンが鳴っても、それは多くの場合、戦争や災害に備えるための「民防訓練」です。慌てず、周りの状況を見て、指示に従って行動しましょう。この訓練は、韓国が現在も休戦状態にあるという現実と、国民の安全を守ろうとする意識の表れでもあります。
また、近年は地震への関心も高まり、防災対策も進められています。しかし、日常的な備えの意識には、まだ課題も残ります。
「郷に入っては郷に従え」。韓国を訪れる際は、こうした「もしも」に備える文化や意識があることを理解し、訓練などに遭遇した際には協力的な姿勢を示すことが大切です。同時に、私たち自身も、旅行先での万が一の事態に備えておく意識を持つことが重要ですね。