韓国ドラマを見ていると、登場人物たちが互いの名前を呼ぶときに、字幕では「〇〇ちゃん」となっているのに、耳で聞こえてくる音声は「〇〇ア」だったり「〇〇ヤ」だったりすることに気づいたことはありませんか?
「あれ?今なんて呼んだの?」
「『ちゃん』にあたる韓国語って一体どれ?」
そんな疑問を持ったことがあるあなた。実は、韓国語には日本語の「ちゃん」に完全に一致する言葉は存在しません。その代わりに、名前の音の響きや相手との関係性によって変化する、韓国語特有の美しく繊細な呼び方のルールがあるのです。
このルールをマスターすれば、あなたの韓国語は一気にネイティブっぽくなり、韓国人の友人や推しとの距離もグッと縮まること間違いありません。
この記事では、韓国語学習者が最初にぶつかる壁の一つである「名前の呼び方(ちゃん付け)」について、基本の「ア/ヤ」の使い分けから、こなれ感が出る「イ」の使い方、さらには胸キュン必至の愛称の作り方まで、例文を交えて徹底的に深掘りしていきます。
韓国語に「ちゃん」はない?呼び名の基本ルールを知ろう
まず最初に、日本語と韓国語の文化的な違いを理解しておきましょう。ここを飛ばしてしまうと、単語だけ覚えても実際の会話で「失礼な人」になってしまう可能性があります。
日本語の「ちゃん」と韓国語の呼び名の決定的な違い
日本では、初対面でも子供相手なら「ちゃん」付けをしますし、ある程度親しくなれば年上・年下に関係なく「〇〇ちゃん」と呼ぶことができますよね。しかし、韓国語ではそうはいきません。
韓国語で「ちゃん」に相当する表現(後述する「ア/ヤ」など)は、「自分と同い年」または「自分より年下」の、かつ「とても親しい相手」にしか使いません。
- 日本語の「ちゃん」: 親しみを込める汎用的な敬称。比較的誰にでも使いやすい。
- 韓国語の「ア/ヤ」: 相手との「上下関係」と「距離感」を明確に示すサイン。使う相手を厳選する必要がある。
年上には絶対NG!韓国の儒教文化と上下関係
韓国は儒教の精神が根付いている国です。年齢による上下関係は日本以上に厳格です。たとえ1歳でも年上の相手に対して、これから解説する「ちゃん付け(ア/ヤ)」を使ってしまうと、「生意気だ」「礼儀を知らない」と思われてしまいます。
「でも、ドラマで年上の女性が年下の男性に『〇〇ヤ~』って甘えてるのを見たよ?」
そう思う方もいるかもしれません。それは、その二人が恋人同士だから、あるいは幼馴染で家族同然だから許される特例です。基本的には、年上に対しては「お兄さん(オッパ/ヒョン)」「お姉さん(オンニ/ヌナ)」といった呼称を使うのが絶対のルールだと覚えておきましょう。
「呼びかけ」と「会話の中」で変わる不思議なルール
もう一つ面白いのが、「本人に呼びかける時」と「会話の中でその人の話題を出す時」で、名前の形が変わることがあるという点です。
日本語なら、「花子ちゃん、ご飯食べた?(呼びかけ)」も「昨日、花子ちゃんがね…(会話)」も同じ「花子ちゃん」ですよね。
しかし韓国語では、この二つのシチュエーションで微妙に語尾が変化します。このニュアンスの違いがわかると、韓国語がもっと楽しくなりますよ。
【基本編】名前+「아(ア)」と「야(ヤ)」の完璧な使い分け
それでは、いよいよ核心に迫ります。韓国語版「ちゃん付け」の代表格である「아(ア)」と「야(ヤ)」の使い方です。この二つは意味は全く同じですが、名前の最後の一文字によって自動的に使い分けられます。
パッチムの有無が運命の分かれ道!
パッチムなしの名前+「야(ヤ)」の法則
名前の最後の文字にパッチム(支えとなる子音)がない場合、つまり母音で終わる名前の場合は、後ろに「야(ヤ)」をつけます。
これは音の流れを自然にするためです。母音で終わる音に、続けて「ヤ」をつなげると、滑らかに発音できるからです。
【例:TWICEのミナ(Mina / 미나)】
「나(ナ)」にはパッチムがありません。
呼びかける時は:「미나야(ミナヤ)~!」
【例:俳優のイ・ミノ(Lee Min-ho / 이민호)】
「호(ホ)」にはパッチムがありません。
呼びかける時は:「민호야(ミノヤ)~!」
日本人の名前の多くは母音で終わる(パッチムがない)ため、自分の名前を韓国語読みにした時も、この「ヤ」をつけるパターンになることが多いでしょう。
「ハナコ」なら「ハナコヤ」、「ユウキ」なら「ユウキヤ」となります。
パッチムありの名前+「아(ア)」の法則
一方、名前の最後の文字にパッチムがある場合は、後ろに「아(ア)」をつけます。
パッチムとは、ハングル文字の下に書かれる子音のことです。これが「ア」と結びつくことで、韓国語特有の美しい響きが生まれます。
【例:BTSのジミン(Jimin / 지민)】
「민(ミン)」の下には「ㄴ(n)」というパッチムがあります。
呼びかける時は:「지민아(ジミナ)~!」
【例:チャン・グンソク(Jang Keun-suk / 장근석)】
「석(ソク)」の下には「ㄱ(k)」というパッチムがあります。
呼びかける時は:「근석아(クンソガ)~!」
まるで魔法!リエゾン(連音化)で変わる発音の秘密
ここで多くの学習者がつまずくのが「発音の変化(リエゾン)」です。
パッチムのある名前に「아(ア)」がつくと、パッチムの音が「ア」の方に移動して発音されます。これを連音化(リエゾン)と呼びます。
音が繋がることで、より親密な響きに変わります。
詳しく見てみましょう。
- Jimin(ジミン)+ a(ア)
「min」の「n」が「a」にくっつきます。
Ji-mi-na(ジミナ)となります。
「ジミンア」と区切って発音するのは不自然です。 - Jin(ジン)+ a(ア)
「jin」の「n」が「a」にくっつきます。
Ji-na(ジナ)となります。 - Tae-hyung(テヒョン)+ a(ア)
「hyung」の「ng」が「a」にくっつきます。
Tae-hyu-nga(テヒョンア)
※ngパッチムは少し特殊で、鼻にかかった音で滑らかにつなげます。
このリエゾンこそが、韓国語の「ちゃん付け」を甘く、親しみやすい響きにしている魔法の正体なのです。推しの名前を呼ぶときは、このリエゾンを意識するとグッと感情がこもって聞こえますよ。
実践練習!BTSやTWICEのメンバーで呼んでみよう
では、理解度を深めるためにクイズ形式で練習してみましょう。以下の名前を呼ぶとき、「ヤ」と「ア」どちらをつけるのが正解でしょうか?
Q1. TWICE サナ(Sana / 사나)
答え:사나야(サナヤ) – パッチムなし
Q2. BTS ジョングク(Jungkook / 정국)
答え:정국아(ジョングガ) – パッチムあり(k音が移動してガになる)
Q3. BLACKPINK リサ(Lisa / 리사)
答え:리사야(リサヤ) – パッチムなし
Q4. EXO ベッキョン(Baekhyun / 백현)
答え:백현아(ベッキョナ) – パッチムあり(n音が移動してナになる)
いかがでしたか?パッチムがあるかないか、ただそれだけを見極めればOKです!
【中級編】名前+「이(イ)」って何?知ればもっと韓国通
「ア」と「ヤ」は呼びかける言葉(呼格)ですが、韓国ドラマを見ていると、会話の中で「ジミニが~」「ナムジュニは~」のように、名前に謎の「イ」がついているのを聞いたことがありませんか?
実はこれ、「이(イ)」という接尾辞で、これこそが日本語の「ちゃん/くん」のニュアンスに非常に近いものなのです。
「イ」は呼びかけじゃない?その意外な役割とは
この「이(イ)」には、大きく分けて二つの役割があります。
- 発音を整えるクッションの役割
パッチムのある名前の後ろに助詞(~が、~は)をつけるとき、発音しにくいのを防ぐために挿入されます。 - 親しみを込める愛称の役割
名前をただ呼ぶよりも、少し可愛らしく、愛着を持った響きにします。
重要なルールとして、「이(イ)」はパッチムがある名前にのみつきます。パッチムがない名前にはつきません。
「が」「は」「を」などの助詞がつくとどうなる?
会話の中で「〇〇ちゃんがね…」と話す場面を想像してください。
■ パッチムがある名前の場合(例:ジミン)
× 지민가(ジミンガ) → 言いにくい!
○ 지민이가(ジミニガ) → 言いやすい!
このように、「イ」が入ることで、パッチムと助詞が直接衝突するのを防ぎ、滑らかに「ジミニガ」と発音できるようになります。
同様に、「ジミンちゃんは」と言いたい時も「지민이는(ジミニヌン)」となります。
■ パッチムがない名前の場合(例:ユナ)
○ 윤아가(ユナガ) → そのままで言いやすいので「イ」は不要。
愛情たっぷりの「イ」の使い方
助詞がつかない場合でも、あえて「이(イ)」をつけて呼ぶことがあります。これは、単なる名前というよりも「愛称(ニックネーム)」化させる効果があります。
例えば、ファンの間ではBTSのV(テヒョン)のことを「テヒョンイ」と呼んだり、J-HOPE(ホソク)のことを「ホソギ」と呼んだりしますよね。これは「テヒョンちゃん」「ホソクくん」といった親しみを込めたニュアンスが含まれています。
ただし、この「イ」だけを使って「テヒョニ!こっち来て!」と本人に呼びかけることはあまりしません。本人に呼びかける時は、先ほど学んだ「テヒョナ!(ア)」を使います。
- 本人を呼ぶ時: 〇〇ア! / 〇〇ヤ!
- その人の話をする時: 〇〇イが… / 〇〇イは…
この使い分けができるようになれば、あなたも立派な韓国語中級者です!
【応用編】もっと仲良くなれる!可愛いあだ名・愛称の作り方
「ア/ヤ/イ」の基本を押さえたところで、さらに一歩進んで、韓国人がよく使う「可愛いあだ名の作り方」をご紹介します。韓国人の友達や恋人ができたら、ぜひ使ってみたいテクニックです。
名前を短く縮めるテクニック
韓国では、フルネームや名前そのままで呼ぶよりも、名前の最後の一文字だけを取って、それに「ア/ヤ」をつける呼び方が非常に好まれます。
例:ジミン(Jimin / 지민)の場合
「ジミンア」だけでなく、「ミナ(민아)」と呼ぶ。
(最後の文字「ミン」+「ア」)
例:ジョングク(Jungkook / 정국)の場合
「ジョングガ」だけでなく、「クガ(국아)」と呼ぶ。
(最後の文字「グク」+「ア」)
例:ユンギ(Yoongi / 윤기)の場合
「ユンギヤ」だけでなく、「キヤ(기야)」と呼ぶ。
(最後の文字「ギ」+「ヤ」)
このように名前を短縮することで、よりプライベートで親密な空気感が生まれます。「私たちだけの呼び名」という特別感が出るんですね。
繰り返してリズムをつける
名前の一文字を繰り返して、幼児語のような可愛さを出す方法もあります。K-POPアイドルが愛嬌(エギョ)を振りまく時や、年下の可愛さを強調する時によく使われます。
- ジミン → チムチム(Jim-Jim)
- ジョンハン → ハニ(Hannie)
- チュカ(おめでとう) → チュカチュカ(これは挨拶ですが、リズム感の例として)
音を繰り返したり、語尾を伸ばしたりすることで、甘い雰囲気を演出できます。
「ウリ(私たちの)」をつける特別なニュアンス
韓国語には「ウリ(우리)」という言葉があります。直訳すると「私たちの」という意味ですが、韓国では「私の」という意味でも頻繁に使われます。
「ウリ オンマ(私のお母さん)」「ウリ ハッキョ(私の学校)」など、自分が所属するコミュニティや、自分にとって大切な存在にこの「ウリ」をつけます。
名前の前にこの「ウリ」をつけて、
「ウリ ジミニ(うちのジミンちゃん)」
「ウリ テヒョニ(うちのテヒョンくん)」
と呼ぶと、強烈な仲間意識と愛情表現になります。ファンが推しを呼ぶ時や、母親が子供を呼ぶ時、恋人を他人に紹介する時によく使われる表現です。
シチュエーション別!正しい呼び方マニュアル
関係性によって呼び方は千差万別。空気を読んで使い分けましょう。
ここでは、具体的なシチュエーションに応じた「正解」の呼び方をまとめました。
年上の彼氏・彼女を呼ぶとき(オッパ、ヌナの壁)
恋愛関係において、呼び方は非常に重要です。
■ 女性から見て年上の彼氏
基本は「オッパ(오빠)」です。「お兄さん」という意味ですが、恋人に対して使うと「頼れるダーリン」のような甘い響きになります。どんなに親しくなっても、年上彼氏を呼び捨て(〇〇ア)にするのは、よほど彼氏が「それでもいいよ」と言わない限り避けたほうが無難です。
■ 男性から見て年上の彼女
基本は「ヌナ(누나)」です。「お姉さん」という意味です。年下彼氏からの「ヌナ」呼びに胸キュンする韓国女性は多いです。
さらに親密になると、二人だけの愛称を使います。
「チャギヤ(자기야)」:ダーリン、ハニー(男女共用)
「ヨボ(여보)」:あなた(主に夫婦間で使うが、カップルも使う)
初対面やビジネスシーンでの「~ssi(氏)」
まだそこまで親しくない、あるいはビジネスの場ではどう呼べばいいでしょうか?
正解は「名前 + ssi(氏 / 씨)」です。
例:「ジミンssi(지민 씨)」
これは日本の「~さん」に一番近い表現で、丁寧さと適度な距離感を保てます。
ただし、注意点があります。
「名字 + ssi」だけで呼ぶのは非常に失礼にあたります。
× 「パクssi」(おい、パク!のような冷たいニュアンスになることも)
○ 「パク・ジミンssi」または「ジミンssi」(フルネームか下の名前に付ける)
友達以上恋人未満?微妙な距離感の呼び方
「同い年だけど、まだ『ヤ』で呼ぶほど仲良くないかな…?」
そんな微妙な距離感の時は、あえて「フルネーム + ssi」や、もし相手が年上なら役職名(先輩/ソンベニム)などで呼び、相手が「タメ口でいいよ(マル ノア)」と言ってくれるのを待つのがスマートです。
韓国では、お互いの呼び方を決める=関係性を確定させる儀式のようなものです。「なんて呼べばいい?」とストレートに聞いてみるのも、仲良くなるきっかけになりますよ。
気をつけたい!日本人がやりがちな呼び名の失敗例
最後に、日本人が悪気なくやってしまいがちな失敗パターンを知っておきましょう。
呼び捨ては喧嘩の始まり?
日本では仲の良い友達を「呼び捨て」にしますよね。しかし、韓国語で名前だけ(ア/ヤをつけずに)呼び捨てるのは、非常に乱暴に聞こえることがあります。
「ジミン!」と呼ぶと、まるで怒っているか、命令しているようなニュアンスになりかねません。必ず親しみを込めた「ア/ヤ」をつける癖をつけましょう。
フルネーム呼びの意外な冷たさ
ドラマなどで、母親が子供を叱る時に「パク・ジミン!!」とフルネームで叫んでいるシーンを見たことがありませんか?
韓国では、あえてフルネームで呼ぶことは、他人行儀な距離感や、怒りの感情を表すことがあります。普段親しいのに急にフルネームで呼ばれたら、「あれ、私何かしたかな?」と不安にさせてしまうかもしれません。
翻訳機を信じすぎてはいけない理由
Google翻訳などの自動翻訳機に「花子ちゃん」と入力すると、単純に「하나코 짱(ハナコ チャン)」と出てくることがありますが、韓国語に「チャン(짱)」という人称接尾辞はありません。(「チャン(짱)」は「最高!」という意味のスラングとしては使われます)。
翻訳機の結果をそのまま使わず、相手との関係性や年齢を考慮して、自分で「ア/ヤ/ssi/オッパ/オンニ」を選び取る力が大切です。
まとめ:名前呼びは親しくなるための第一歩
韓国語の「ちゃん」付け、すなわち「ア/ヤ」や「イ」の使い分けは、単なる文法ルールではありません。それは相手への「親愛の情」そのものです。
- パッチムなし + 야(ヤ)
- パッチムあり + 아(ア)(リエゾンを忘れずに!)
- 年上には使わず、敬称(オッパ/オンニ等)を使う
- 第三者との会話では「イ」を活用する
この4つのポイントを押さえておけば、もう迷うことはありません。
「名前」はその人にとって一番大切な言葉です。正しい呼び方で、心を込めて相手の名前を呼んでみてください。きっと、今まで以上に素敵な関係が築けるはずです。
さあ、今日からあなたも、大好きなあの人の名前を韓国語式で呼んでみませんか?

